2001年3月号    ● 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 ●  top
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 屋根の上の父さん

     ―ランディ、そんなの知らんでぃ
 
 

 その日、私は風邪で昼間から寝込んでいた。母は友人と朝から日帰りで温泉へ……。そんな中、父は一人で自宅の屋根の雪下ろしを始めた。
 二階で睡魔に襲われていた私には、すぐ上の屋根で氷を叩き割り、ドカッドカッ落ちていく雪の音は耳ざわりでしかなかったが、いつしか風邪の高熱に薬の効果も手伝ってウトウト……。
 と、その時、ひときわ派手な雪の落下音がしたかと思うと、わが家には奇妙な静寂が漂い始めた。
 私は遠のく意識の中で「ああ、雪下ろし、どうやら終ったようだな……」とつぶやきながら、スースー、グーグー、深い眠りに。
 ところが屋根の上では父が大変な事になっていたのだ。
 確かに屋根の雪はすべて落ちた。だが少しづつ叩き割るつもりの雪がいっせいに滑りはじめ、その雪の上に足をのせていた父は危うく一緒に落下するところだったという
 とっさに煙突に手をかけ、なんとか落下は免れたものの、運の悪いことに、屋根にかけたハシゴは雪の塊に押され、地上に倒れていったのである!
 こうなると今度は屋根から下りる術がない。わが家は総二階の造りで地面までは非常に遠い(笑)。いくら雪のクッションがあるといっても飛び降りるには、ちょっと勇気がいる。
 さぁ〜、さぁ〜、父は困った。
 大声を出しても熟睡している娘はいっこうに様子を見に来る気配はないし、心配性の母も今日に限って温泉だ。
 薄着な上に汗もかいている……屋根の上でぽつんと取り残された父はしだいに体が冷えて、悪寒に身を震わせはじめた。
 と! そこに一筋の光明が!!
 600メートルほど離れた隣人が、愛犬のランディの散歩でわが家に向かって歩いてくるではないか!!
 これぞ天の助け。普段から欠かさず仏壇にお供えを上げて手を合わし、神棚にお酒をあげていた甲斐もあるというものだ!
 ところがお天道様も意地悪なもので隣のランディは遊びまわっては寄り道ばかりして、一向にこちらへ向かって来る気配がない。
 「ええい! ご利益の無い!!」と父は苛立ったと言うが、普段から仏壇や神棚にお供えをして手をあわせているのは母や私である。やはり神頼みも自分でお参りしなければご利益は期待できないということであろう。
 父は必死に「おーい馬鹿イヌーう!! 早く飼い主をここまで引っ張って来〜〜い!!」と念力を送ったそうだが、この父の必死のテレパシーはランディに届かなかったのか、はたまた届いたがゆえに馬鹿犬呼ばわりされてランディもムッときたのか定かではないが、ランディは、あともう少し!もう少しで父の声が隣人の耳に届くかという所まで来て、さっときびすを返して飼い主を引っ張って自宅へと帰ってしまった……。
 こうなると、父はまるで救助船に見つけてもらえない離れ小島の遭難者、孤立無援状態である。
 それからどのくらい時間が経ったことだろう?
 私はふと目を覚まし、居間に屋根の雪下ろしをとっくに終えたはずの父の姿が見えないのに気がついた。
 なんだか嫌な予感が頭をかすめ、ふと窓の外に目をやると几帳面な父にはありえないような状態で、スコップが道路の真ん中に淋しそうに放置されている。
 これはまさか!? あわてて窓を開け、外に向かって呼びかけると、「助かった!!」という歓喜の叫び声が空から聞こえた。
 こうして私は父を救助し、この一件は落着した。
 屋根の雪下ろしは けして一人では行わないようにしたいものだ。