2008年
道北日報
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心のビタミン編
                -19-

士別市立病院副院長 澤谷令兒医師(外科

 現在、みなさんが献血した血液は、赤血球、血漿(けっしょう)、血小板などの各成分に分離され、用途に応じて輸血されます。
 いまでは血液センターに依頼すると、ほぼ必ず用意できるようになりました。

 わたしが学生だった30年前は、いまのようにすぐ血液を用意できる体制ではありませんでした。
 大手術で出血が予想される時は、患者さん自身が用意しなければならなかったのです。

 特に、大出血には採ったばかりの新鮮な血液(生血=なまけつ)が止血効果があり良いとされていました。実際に生血を輸血すると出血が止まるのでした。

 ただし、生血は採血して時間が経過してしまうとその効果が薄れるので、24時間以内に使用する必要がありました。

 20代の女性Oさんは、脊柱の手術のため北大病院に入院していました。当時、脊柱の手術は一部の大学でしかできなかったのです。
 地方から来ていたOさんは、札幌に親戚も知人もいませんでした。手術を受けるため4gの生血を集めるよう言われて困り果てていました。

 その話をわたしが家庭教師をしていたM君に話すと、程なく同じ血液型の高校生を集めてきました。高校生がたむろしている喫茶店のノートにOさんのことを書いたところ、いろいろな高校の生徒が手を上げたのです。全部で25人。

 彼らは手術の2〜3日前に病院へ行き、Oさんに適合する血液かどうかのテスト(クロスマッチテスト)を済ませました。
 手術当日、まず10人分の血液(2g)を採血し、手術が始まりました。残りは必要な時に採血できるように、みんなで病院に待機していました。

 手術には5時間以上かかりましたが、無事終わりました。待機していた高校生たちは、Oさんの手術のために学校をサボったようです。
 その後一週間ほどして、Oさんのお母さんがわたしの4畳半一間の安アパートへ訪ねて来ました。
 ほんのお礼だと5万円を差し出されました。当時の5万円は大金です。わたしはためらわず、ありがたくいただきました。

 人によっては、親切にされると恩を受けたと考え、心の負担になる方もいると思います。お金を渡すことで気が楽になるならと、もらいました。

 その5万円を「みんなで何か食べなさい」とM君に渡しました。
 彼らはその半分を交通費と食事代として使いました。残りの半分で花束と記念品を買い、Oさんのお見舞いにみんなで行きました。

 Oさんは1年余りのリハビリ入院を終えて、その後結婚したと聞きました。いまごろどうしているのか、たまに思い出すことがあります。